「疲れやすいので補中益気湯を飲んでいるけど、十全大補湯とどう違うの?」
「病院で人参養栄湯を出されたけど、十全大補湯とほとんど同じに見える」
ご相談の場で、こうしたご質問をよくいただきます。
3つとも「元気を補う」処方ですが、私はどんな病気・どんな場面で弱っているかで使い分けています。かぜが長引いているときは、柴胡が入っていて熱を取るイメージのある補中益気湯。病気や手術のあとなどで、元気も血も足りなくなっているなら十全大補湯。人参養栄湯は、私自身はあまり出しませんが、十全大補湯の型で咳がある方には使いやすい処方です。
この記事では、3つの処方がそれぞれどんな体の状態に合うのかを、中身の生薬や古典の記載とあわせて、私の見方で書いていきます。
この記事はこんな方におすすめ
- 補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯のどれが自分に近いか知りたい方
- いま飲んでいる処方が合っているのか、ほかとの違いが気になる方
- 病気や手術のあと、体力がなかなか戻らないと感じている方
3つとも「元気を補う」処方。違いは「どんな病気・場面で弱っているか」
補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯は、どれも人参と黄耆(おうぎ)が入った、元気を補う処方です。漢方では「参耆剤(じんぎざい)」とまとめて呼ぶこともあります。
ただ、中身を並べると組み立てはずいぶん違います。店頭では、同じ「疲れやすい」でも、かぜが長引いているのか、病気や手術のあとなのか、咳があるのかを伺ってから、3つのどれかを考えます。
| 処方(出典) | 私が考える場面 | 中身の特徴 |
|---|---|---|
| 補中益気湯(李東垣『内外傷弁惑論』『脾胃論』) | かぜが長引く | 胃腸と元気を補う生薬に、柴胡・升麻が少し入る。当帰は入るが、地黄など血を補う組み合わせ(四物湯の形)はそろわない |
| 十全大補湯(『和剤局方』) | 病気や手術のあとなどで、元気も血も足りない | 元気を補う組み合わせと、血を補う組み合わせを合わせ、黄耆・桂皮を加える |
| 人参養栄湯(『和剤局方』) | 十全大補湯の型で、咳がある | 十全大補湯から川芎を除き、五味子・遠志・陳皮を加えた形 |
表はあくまで入口です。ここからは処方ごとに、私がどう考えているかを書きます。
補中益気湯は柴胡が入っているのがポイント。かぜが長引くときに
補中益気湯は、金元時代の李東垣(りとうえん)という医家の処方です。『内外傷弁惑論』『脾胃論』に載っています。李東垣は胃腸の働きをとても重く見た人で、名前の「中を補い、気を益す」の「中」は、おなかの真ん中、つまり胃腸のことです。
補中益気湯でいちばん特徴的だと私が思っているのが、柴胡(さいこ)が入っていることです。
柴胡は、小柴胡湯など、熱が出たり引いたりしてすっきりしないときに使う処方の中心になる生薬です。ですから私は、補中益気湯には「熱を取ってくれる」イメージを持っています。かぜが長引いて、熱っぽさがなかなか抜けきらない。そういうときに補中益気湯を考えるのは、このためです。
古典の側から見ると、説明の仕方が少し違います。李東垣は、胃腸が弱って元気が落ちたときに出る熱を、かぜのように外から入ってきた熱とは別のものとして区別しました。そして、この熱は苦く冷やす薬で抑え込むのではなく、甘く温める薬で胃腸と元気を補えば引いていく、と説いています。のちに「甘温除熱(かんおんじょねつ)」と呼ばれる考え方です。その中で柴胡は、升麻(しょうま)とともに少量入り、下がった気を持ち上げる役として説明されています。
古典の説明と私のイメージは筋道が少し違いますが、どちらも補中益気湯を「補いながら熱にかかわる処方」として見ている点は同じです。
ここでいう「熱を取る」は漢方の見方の話で、体温計で測る熱を補中益気湯で下げる、という意味ではありません。熱が何日も続く、寝汗や体重減少を伴うときは、先に医療機関へ(目安は下にまとめています)。また、補中益気湯を飲んでいる間に、せきや息切れを伴う熱が出てきたときは、まれな副作用(間質性肺炎)のこともあるので、飲み続けて様子を見ずに、処方元や医療機関へご連絡ください。
夏の暑さで弱ったときは、私は補中益気湯よりも清暑益気湯(せいしょえっきとう)を考えます。補中益気湯に近い組み立てで、効能・効果も「暑気あたり、暑さによる食欲不振・下痢・全身倦怠、夏やせ」と、より夏バテに向いた処方です。ツムラの医療用は明の時代の『医学六要』の処方とされ、人参・黄耆・蒼朮・当帰・陳皮・甘草に、麦門冬・五味子・黄柏を加えた形です。清暑益気湯にも甘草が入っているので、補中益気湯などとご自身の判断で重ねて飲むのは避け、併用の前にご相談ください。
十全大補湯は「元気も血も足りない」ときに。病後・術後の弱りに
十全大補湯は、宋の時代の処方集『和剤局方』に載っています。十の生薬からなり、「十全」の名のとおり、足りないものを広く補う処方です。
中身は、元気を補う基本の組み合わせ(人参・朮・茯苓・甘草。四君子湯の形)と、血を補う基本の組み合わせ(当帰・芍薬・川芎・地黄。四物湯の形)を合わせ、そこに黄耆と桂皮を加えたものです。元気と血の両方を補う組み立てです。補中益気湯と比べると、柴胡・升麻などが入らず、茯苓・芍薬・川芎・地黄・桂皮が加わっているのが主な違いです。『和剤局方』には、病気のあと元気が元どおりに戻らないときにも用いることが書かれています。
私が十全大補湯を考えるのは、大きな病気や手術のあとで、元気だけでなく血も足りなくなっている、と見える場面です。
効能・効果には「貧血」も入っていますが、貧血そのものが気になる方は、原因(鉄不足・月経量の多さ・胃腸からの出血など)を医療機関で確かめることが先です。鉄剤などを処方されている方は、自己判断でやめずに続けてください。そのうえでの体調面のご相談は貧血・鉄不足が気になる方の漢方相談でもご案内しています。
人参養栄湯は「十全大補湯の型で、咳がある」ときに
正直に書くと、私は人参養栄湯を出すことはあまり多くありません。十全大補湯の型の方には、十全大補湯で考えることがほとんどだからです。
人参養栄湯も『和剤局方』の処方で、中身は十全大補湯から川芎を除き、五味子(ごみし)・遠志(おんじ)・陳皮(ちんぴ)を加えた形です。
この加わった生薬が、使い分けの手がかりになります。五味子は、肺の気を引き締めて咳を鎮める生薬で、咳の処方によく入ります。遠志は気持ちを落ち着け、眠りを助けるほか、痰を切る働きもあります。陳皮は胃の働きを助けます。『和剤局方』でも、疲れが積み重なって弱りきり、少し動くと息が上がる状態や、咳が出る状態にも用いることが書かれています。
ですから私の中では、人参養栄湯は十全大補湯の型で、咳がある方には使いやすい、くらいの位置づけです。ただし、咳は人参養栄湯の効能・効果の文言には入っておらず、咳そのものを治す薬ではありません。長く続く咳が気になる方は、まず医療機関で原因を確かめたうえで、長引く咳の漢方相談もご覧ください。
効能・効果は3処方でどう違う?
添付文書に書かれている効能・効果も、参考までにまとめておきます。ツムラの医療用では、十全大補湯と人参養栄湯の効能・効果が同じ文言です。効能の文言だけでは2つを見分けられないので、上に書いたような中身の違いで考えています。
医療用(ツムラ):消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症
一般用(ツムラ漢方補中益気湯エキス顆粒):体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒
■ 十全大補湯
医療用(ツムラ):病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
一般用(十全大補湯エキス顆粒[東洋]分包):体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
■ 人参養栄湯
医療用(ツムラ):病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
一般用(ツムラ漢方人参養栄湯エキス顆粒):体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
市販品の効能・効果は製品ごとに少しずつ違いますので、お手持ちの説明書もあわせてご確認ください。効能の文言が同じでも、合うかどうかは、どんな病気や場面で弱ったかで変わります。見当をつけるために、次のことを教えていただけると助かります。
疲れが出始めたきっかけ(かぜ・病気や手術・夏の暑さなど)と、咳があるかどうかが分かると見当がつけやすくなります。飲んでいる漢方薬があれば、箱かお薬手帳の写真も添えてください。
LINEで相談内容を送る お電話: 072-464-1181
メッセージは24時間お送りいただけます(営業時間内に順次返信)。
こんなときは漢方より先に医療機関へ
疲れやだるさの陰に、医療機関での確認が要る病気が隠れていることがあります。どの処方が合うかを考える前に、次のようなときは受診してください。
・胸の痛みや強い息苦しさがある、動悸がして冷や汗が出る、気が遠くなる
・黒いタール状の便が出た、血を吐いた
・急に片側の手足に力が入らない・しびれる、顔がゆがむ、ろれつが回らない
・暑い中で強い頭痛や吐き気がある、自力で水分がとれない、意識がぼんやりする、体が熱い(熱中症のおそれ)
・消えてしまいたい、死にたいという気持ちがある(ひとりで抱えず、医療機関や救急、地域の相談窓口へ)
早めに受診してほしいとき
・思い当たる理由がないのに体重が減ってきた(食欲が落ちて体重も減っている場合も含みます)
・熱や微熱が続く、寝汗で着替えるほどの日が続く
・少し動いただけで息切れ・動悸がする、顔色が悪く立ちくらみが続く(貧血や心臓・肺の確認が要ります)
・皮膚や白目が黄色い、尿の色が濃い茶色
・咳が3週間以上続く、痰に血がまじる(漢方薬を飲み始めてから咳・息切れ・発熱が出てきた場合は、3週間を待たずに下の「飲む前・続ける前に確認すること」のとおりご連絡ください)
・便に血がまじる、便通がこれまでと変わった
・のどが渇いて水をたくさん飲み、尿も多い(血糖の確認が要ります)
・寒がりになった、むくみ・声のかすれ・便秘が出てきた、または動悸・汗・手のふるえ・体重減少がある(甲状腺の確認が要ります)
・いびきが大きい、寝ている間に息が止まると言われた、日中に強い眠気がある
・気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態が2週間以上続く(眠れない・食べられないことが重なる場合も。産後の方も含みます)
・月経の量が多い、月経のたびに寝込むほどつらい
医療機関で大きな病気がないと分かったうえで、体質の面から漢方を考える、という順番で大丈夫です。だるさそのもののご相談は疲れ・だるさが取れない方の漢方相談でもご案内しています。
飲む前・続ける前に確認すること
補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯には、いずれも甘草が入っています。医療用の添付文書では、甘草を含む漢方薬やグリチルリチン酸を含むお薬と一緒に使うと、偽アルドステロン症(むくみ、血圧の上昇、手足のだるさ・力が入りにくい、体重増加など)があらわれやすくなり、低カリウム血症の結果としてミオパチー(脱力感、手足のけいれん・まひなど)もあらわれやすくなる、とされています。3処方どうしを重ねて飲むことも、甘草の重複になります(上で触れた清暑益気湯も甘草を含みます)。ほかの漢方薬・市販薬と一緒に使う前に、ご相談ください。
■ 重大な副作用
ツムラの医療用電子添文では、重大な副作用として次のものが記載されています(いずれも頻度不明)。
・補中益気湯:間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパチー、肝機能障害・黄疸
・十全大補湯・人参養栄湯:偽アルドステロン症、ミオパチー、肝機能障害・黄疸
・清暑益気湯:偽アルドステロン症、ミオパチー
せき・息切れ・息苦しさ・発熱が出てきた、手足のだるさやしびれ・むくみが出てきた、強いだるさ・皮膚や白目が黄色くなる・褐色の尿に気づいた、というときは、市販品はすぐに服用をやめて、医師の診療を受けてください。処方されている方は、すぐに処方元へご連絡ください。
■ 胃腸が弱い方
十全大補湯・人参養栄湯は、医療用の添付文書で、著しく胃腸の虚弱な方には食欲不振・胃部不快感・悪心・嘔吐・下痢など(人参養栄湯では腹痛も)があらわれることがある、とされています。市販品でも、胃腸の弱い方は服用前に相談することとされています。飲み始めて胃がもたれる、食欲が落ちた、というときはご相談ください。
■ 妊娠中・授乳中・お子さま・ご高齢の方
医療用では3処方とも(清暑益気湯も同様)、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」、授乳中は「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とされています。市販品でも、妊婦または妊娠していると思われる人は服用前に医師・薬剤師・登録販売者に相談することとされています。ご高齢の方は医療用で「減量するなど注意すること」とされています。お子さまは用法が製品ごとに違いますので、説明書をご確認のうえ、ご相談ください。
■ 続ける期間の目安
ツムラの市販品(補中益気湯・人参養栄湯)には、1ヵ月位(補中益気湯をかぜに使う場合は5~6日間)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、医師・薬剤師・登録販売者に相談すること、と書かれています。十全大補湯も含め、製品ごとに説明書をご確認ください。
■ 治療中の病気がある方
高血圧・心臓病・腎臓病の方、むくみがある方、がんなどの治療中の方は、飲む前に治療を受けている医療機関へご相談ください。処方されているお薬(漢方薬を含む)を、ご自身の判断で中止・変更したり、別の処方に切り替えたりしないでください。飲んでいるお薬・市販薬・サプリメントは、まとめてお知らせください。
よくある質問
Q. 疲れやすいのですが、3つのうちどれから考えればいいですか?
私はまず、どんな病気や場面で疲れが出てきたかを伺います。かぜが長引いているなら補中益気湯の方向、病気や手術のあとで元気も血も足りないなら十全大補湯の方向、そこに咳があれば人参養栄湯も考えます。夏の暑さで弱ったときは清暑益気湯を考えます。ただ、疲れの原因が睡眠不足や気分の落ち込み、貧血や甲状腺などにあることもあります。まずは疲れ方の特徴と、いつから続いているかを教えてください。
Q. 補中益気湯と十全大補湯を一緒に飲んでもいいですか?
ご自身の判断で重ねるのはおすすめしません。どちらにも甘草が入っていて重なりますし、人参・黄耆・当帰など中身もかなり共通しています。どちらか一方の型に近いことがほとんどなので、まずどちらが合うかを一緒に考えましょう。
Q. 十全大補湯と人参養栄湯は効能が同じなら、どちらでもいいのでは?
効能の文言は同じでも、中身が違います。私は、咳の原因を医療機関で確かめたうえで、十全大補湯の型で咳が続く方なら人参養栄湯、そうでなければ十全大補湯で考えることがほとんどです。処方されている方は、切り替える前に処方元の先生にご相談ください。
Q. どれくらい飲んで変わらなければ、見直しますか?
私は、疲れの出方と、きっかけになったかぜや病気のあとの戻り具合を目安に見ています。市販品では1ヵ月位(補中益気湯をかぜに使う場合は5~6日間)が相談の目安とされています。処方されている方は処方元の先生と、市販品の方は説明書の「相談すること」を目安に判断してください。迷うときは、飲んだ期間と変わったこと・変わらないことをメモして、LINEで送ってください。
最後に
かぜが長引くなら、柴胡の入った補中益気湯。病気や手術のあとで元気も血も足りないなら十全大補湯。そこに咳があるなら人参養栄湯。夏の暑さで弱ったなら清暑益気湯。私は、どんな病気・場面で弱っているかを先に伺ってから考えています。
どれに近いかは、ご自分では決めにくいものです。疲れが出始めたきっかけと、咳があるかどうかを分かる範囲で送っていただければ、そこから一緒に考えます。
症状の側から相談したい方は、下のページもどうぞ。
疲れ・だるさが取れない方の漢方相談 食欲不振・胃腸が弱い方の漢方相談 夏バテ・暑さによる疲れの漢方相談 貧血・鉄不足が気になる方の漢方相談病院のお薬を飲んでいる方の相談については、当店の漢方薬のご相談・お取り扱いについてもあわせてご覧ください。
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LINEで相談内容を送る お電話: 072-464-1181 ご予約フォーム
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本ページの内容は、補中益気湯・十全大補湯・人参養栄湯の考え方を薬剤師の見方でまとめた情報提供であり、特定の方の治療効果や効能を保証するものではありません。添付文書の引用は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に掲載されているツムラ補中益気湯・ツムラ十全大補湯・ツムラ人参養栄湯エキス顆粒(医療用)電子添文(2023年12月改訂)、ツムラ清暑益気湯エキス顆粒(医療用)電子添文(2023年12月改訂)、ツムラ漢方補中益気湯エキス顆粒・ツムラ漢方人参養栄湯エキス顆粒・十全大補湯エキス顆粒[東洋]分包(一般用)の使用上の注意によります(2026年9月時点)。
※ 漢方薬の体感には個人差があり、症状の変化を保証するものではありません。漢方相談は医療機関での診断・治療を尊重しながら、体質面のご相談として承ります。急な症状の悪化や救急の場合は、医療機関の受診を優先してください。

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